「木製の人工衛星!?」と聞いて、驚く人も多いかもしれません。実は今、京都大学と住友林業が中心となって進める「宇宙木材プロジェクト」によって、世界初の木製人工衛星が実現し、実際に打ち上げまで行われました。この衛星「LignoSat」は、ホオノキという日本の木材を使い、JAXAの審査を経て宇宙へと放たれた画期的なプロジェクトです。
本記事では、「打ち上げ いつ?」という疑問に答えるスケジュール情報や、木製人工衛星のメリットとデメリット、使用されたホオノキの特性、京都大学の研究背景など、幅広く紹介していきます。
環境負荷の少ない持続可能な宇宙開発を目指す取り組みに、いま注目が集まっています。
この記事のポイント
- 木製人工衛星の開発背景と目的
- 木材(ホオノキ)が宇宙で使われる理由
- 実際の打ち上げ時期と衛星の構造
- 木製人工衛星のメリットとデメリット
木製人工衛星の実現とその背景
- ①京都大学の木製人工衛星の開発経緯
- ②世界初の木造人工衛星の概要とは
- ③木で作った人工衛星はどんな構造?
- ④ホオノキが人工衛星に採用された理由
- ⑤宇宙木材プロジェクトの目的とは
- ⑥JAXAと木造人工衛星の関係
①京都大学の木製人工衛星の開発経緯
京都大学の木製人工衛星の開発は、2016年に土井隆雄宇宙飛行士が同大学に着任したことをきっかけに始まりました。土井氏は、宇宙で再生可能な資源を活用できないかという着想のもと、「宇宙で木を使う」という構想を立てました。
このアイデアに共鳴したのが、木材の物性物理を専門とする村田功二教授です。両者はそれぞれの知見を持ち寄り、週1回の勉強会を重ねて宇宙と木材に関する基礎的な知識を共有しました。こうして立ち上がったのが「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」です。
プロジェクトは2020年に本格始動し、木造人工衛星「LignoSat」の開発がスタートしました。木材の宇宙利用の実現可能性を探るため、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟で宇宙曝露実験を実施。約10か月間にわたって、ホオノキ・ヤマザクラ・ダケカンバの3種の木材が宇宙空間に晒されました。
その結果、木材には割れや反りといった劣化がほとんど見られず、宇宙環境でも十分な耐久性を持つことが明らかになりました。この成果が、後の木製人工衛星開発の大きな礎となりました。
このように、京都大学の取り組みは単なる好奇心にとどまらず、持続可能な宇宙開発に向けた具体的な挑戦として注目されています。
②世界初の木造人工衛星の概要とは
世界で初めて宇宙に送り出された木造人工衛星は、「LignoSat(リグノサット)」と呼ばれる超小型衛星です。これは京都大学と住友林業が共同開発したもので、木材の宇宙利用を科学的に検証するための実験機でもあります。
サイズは1辺が10cmのキューブ型(1U CubeSat)で、重さは約0.9kg。内部にはひずみセンサーや温度センサーなどが組み込まれており、宇宙空間における木材の物理的変化を測定できる設計となっています。
2024年11月、LignoSatは米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから、スペースX社のロケットによりISSへと運ばれました。その後、12月に「きぼう」実験棟から宇宙空間に放出されました。
最大の特徴は、人工衛星の外装に木材(ホオノキ)を使用している点です。これにより、大気圏再突入時に完全燃焼し、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の発生を防ぐことが期待されています。
このようにLignoSatは、宇宙空間での木材の耐久性や利便性を評価するだけでなく、地球環境への配慮も兼ね備えた画期的な試みといえるでしょう。
③木で作った人工衛星はどんな構造?
木で作られた人工衛星と聞くと驚くかもしれませんが、実際には高度な設計と伝統的な技術が組み合わされています。LignoSatの外殻は、ネジや接着剤を一切使わず、日本の伝統工法である「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」によって精密に組み上げられています。
この工法は、強度を保ちながら木材同士をぴったりと組み合わせる技術で、家具や建築にも用いられてきたものです。これにより、宇宙空間の極端な温度変化や真空環境にも耐える構造が実現しました。
使用された木材はホオノキで、軽量かつ均質で加工性に優れており、宇宙実験でも高い耐久性が確認されています。また、木材は金属と違って電磁波を遮断しないため、通信アンテナを衛星内部に設置できるという利点もあります。
さらに、内部には各種センサーや電子基板が収められており、宇宙環境下で木材がどのように反応するかを観測するミッションが組まれています。今後の開発では、姿勢制御機構や内部アンテナの内蔵など、より高度な機能の実装も予定されています。
このように、木で作られた人工衛星は見た目のユニークさ以上に、科学的かつ実用的な意義を持つ構造となっています。
④ホオノキが人工衛星に採用された理由
ホオノキが人工衛星に採用されたのは、木材として非常に優れた特性を持っているからです。特に、木材の均質性、加工のしやすさ、割れにくさが大きな決め手となりました。
ホオノキは、日本の広葉樹の中でも組織が緻密で、乾燥や温度変化による反りや割れが少ないとされています。宇宙空間ではマイナス100℃からプラス100℃にまで及ぶ急激な温度変化が起こりますが、ホオノキはそのような過酷な環境にも耐えうる素材と見なされました。
また、加工性にも優れており、細かい伝統工法「組木(くみき)」による精密な構造づくりが可能です。ネジや接着剤を使わずに、しっかりと部材を組み上げることができるため、接合部からのガス放出(アウトガス)といった宇宙空間でのリスクも抑えることができます。
さらに、2022年に実施された宇宙曝露実験でもホオノキは他の木材に比べて劣化が少なく、最も良好な耐久性を示しました。この結果を受けて、最終的なフライトモデルにもホオノキが選定されています。
このように、ホオノキは単なる国産材というだけではなく、宇宙用素材として実証データに基づいた選抜が行われた木材です。
⑤宇宙木材プロジェクトの目的とは
宇宙木材プロジェクトの主な目的は、木材という再生可能資源の宇宙利用を科学的に検証し、持続可能な宇宙開発の道を切り拓くことにあります。プロジェクト名は「LignoStella(リグノステラ)」。ラテン語で「木=Ligno」「星=Stella」を意味します。
このプロジェクトは、京都大学と住友林業が共同で2020年に立ち上げました。当初の発想は、「月面に木で家を建てられないか?」という突拍子もない着想から始まりましたが、現在では地球低軌道上に木造衛星を配置する「木の星座(コンステレーション)」の実現に向けた技術開発へと進化しています。
ここでのキーポイントは、木材が燃え尽きるという特徴です。木造人工衛星は大気圏に再突入した際に金属のような有害な微粒子を発生させず、地球環境への負荷が小さいというメリットがあります。これは今後増加が予想される小型衛星の運用サイクルにおいて、極めて重要な観点です。
また、宇宙での木材利用により、国内で活用しきれていない広葉樹の再評価や、林業の振興にもつながることが期待されています。
つまり、宇宙木材プロジェクトは、環境・技術・産業の三側面で新たな価値を生み出す未来志向の取り組みです。
⑥JAXAと木造人工衛星の関係
JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、木造人工衛星「LignoSat」の安全性審査や技術評価の面で重要な役割を果たしました。宇宙で人工衛星を運用するには、JAXAやNASAといった宇宙機関の厳格な基準をクリアしなければなりません。
LignoSatの開発にあたっては、JAXAが実施する多くの試験に合格する必要がありました。具体的には、ロケット打ち上げ時の衝撃を想定した振動試験、宇宙の真空状態と温度変化を再現する熱真空試験、有害なガスが発生しないかを調べるアウトガス試験などが含まれます。
さらに、実験の前段階として、宇宙空間に木材試料を曝露するための「きぼう」日本実験棟の利用も、JAXAとの連携で実現しています。試験データや安全性に関する結果は、JAXAに提出され、最終的に運用許可が与えられました。
このように、JAXAは単なる技術支援機関ではなく、木製人工衛星の実用化における公的な承認機関としての重みを持ち、LignoSatの開発成功を下支えしています。
木製人工衛星の可能性と課題
- ①木造人工衛星のメリットは?環境面の利点
- ②木造人工衛星のデメリットに要注意
- ③木製人工衛星打ち上げ後の課題と展望
- ④世界で初めて木造の人工衛星は?
- ⑤木造人工衛星の今後と2号機の展望
- ⑥木造人工衛星の打ち上げはいつ?スケジュールを解説
①木造人工衛星のメリットは?環境面の利点
木造人工衛星が特に注目される理由の一つに、環境へのやさしさがあります。現在、地球低軌道を周回する多数の人工衛星は、役目を終えると大気圏に再突入し、燃焼して処理されます。しかし、金属製の衛星では、その過程で酸化アルミニウムなどの微粒子が発生し、大気中に残留する可能性があるのです。
これらの粒子は成層圏に滞留し、太陽光の反射やオゾン層への影響を通じて、地球の気候に長期的な悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。とりわけ、衛星コンステレーション(多数の小型衛星を使ったネットワーク)の普及により、年間1万機もの衛星が再突入する時代が迫っており、その影響は無視できません。
ここで、木造人工衛星が重要な役割を果たします。木材は有機物であるため、再突入時に完全に燃焼して水蒸気や二酸化炭素に分解され、粒子として残ることがありません。つまり、宇宙開発が環境負荷を増やさずに済む選択肢の一つとなり得るのです。
このように、木造人工衛星は持続可能な宇宙開発を支える素材として、将来的な地球環境保全に大きく貢献できると考えられています。
②木造人工衛星のデメリットに要注意
一方で、木造人工衛星には慎重な検討が必要なデメリットも存在します。主な課題は、構造強度のばらつき、宇宙環境への完全な耐性、そして運用時の不確実性です。
まず、木材は天然素材であるため、均一性に限界があります。伐採された部位や乾燥の方法によって、強度や反り方が異なることがあり、設計や試験段階で想定外の動作につながる可能性があります。たとえば、ヤマザクラはエンジニアリングモデルで割れやすいことが確認され、最終的に使用が見送られました。
また、宇宙空間では極端な温度変化や原子状酸素、紫外線などの影響が加わります。2022年の曝露実験では大きな劣化は確認されませんでしたが、あくまで10か月という限定された期間での結果です。長期運用に耐えられるかどうかは、まだ未知数です。
さらに、LignoSat 1号機ではアンテナ展開の失敗により地上との通信ができませんでした。素材とは直接関係がないものの、木製構体による設計の制約が、装置の信頼性に影響する可能性も否定できません。
このように、木造人工衛星には多くの期待がある一方で、実用化にはまだ克服すべき技術課題も残されているというのが現状です。今後の開発では、これらのリスクへの対応が重要な鍵となります。
③木製人工衛星打ち上げ後の課題と展望
木製人工衛星「LignoSat」は2024年12月に宇宙空間へ放出されましたが、その後の運用ではいくつかの課題が浮き彫りになりました。中でも最も深刻だったのは、地上との通信が確立できなかった点です。
通信ができなかった要因としては、アンテナの展開不良が疑われています。木製構体の特性上、設計段階で金属製衛星とは異なる考慮が必要となるため、従来通りの構造をそのまま適用することが難しいのです。結果として、衛星は宇宙空間に存在しながらも、運用としての成果を得るには至りませんでした。
しかし、それでも大きな意義があります。人工衛星としての構体が約3か月間、宇宙空間に滞在し、割れや剥がれもなく安定して存在していたこと自体が、木材の有用性を証明する重要な結果だったからです。
今後の展望としては、アンテナの内蔵化や姿勢制御機構の導入により、木製人工衛星の設計を一新する計画が進行中です。木材ならではの構造的特性を活かしつつ、システム面の信頼性を高めることで、次のフェーズに進もうとしています。
④世界で初めて木造の人工衛星は?
世界で初めて宇宙に放出された木造人工衛星は、京都大学と住友林業が共同で開発した「LignoSat(リグノサット)」です。2024年11月に米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられ、12月には国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から宇宙空間に放出されました。
この衛星は1辺約10cmの超小型衛星(CubeSat)で、構体に使用された木材はホオノキです。ホオノキは、軽量で均質性が高く、加工しやすいという特性から選ばれました。また、接着剤やネジを使わずに日本の伝統的な組木技法で組み立てられている点も特徴です。
当初は地上との通信を確立し、構体の歪みや温度変化、磁気や放射線の影響を測定する予定でしたが、アンテナ展開の問題により通信は行えませんでした。とはいえ、木製構体が宇宙空間で問題なく機能したという実績は、木材の新たな可能性を示す歴史的な成果といえるでしょう。
⑤木造人工衛星の今後と2号機の展望
LignoSat 1号機の経験をふまえ、現在は2号機の開発が本格化しています。2号機はサイズが2倍となる「2Uサイズ」で、内部にアンテナを内蔵する設計が採用されている点が最大の特徴です。これは、1号機で起きたアンテナ展開不良を避けるための重要な改良です。
さらに、アンテナが地上に向くように制御するための姿勢制御機構も搭載される予定です。木材は電磁波を通すため、内部アンテナでも通信が可能であり、外部にアンテナを設置する必要がないという特性が大いに活かされています。
現在、開発チームは振動試験や熱真空試験などの地上試験を繰り返しながら、2026年の完成、2027年の打ち上げを目指して準備を進めています。2号機では通信の確実性に加え、運用期間の延長や精度の高い観測データの取得も目指されています。
このように、木造人工衛星は単なる技術実証から、実用化・多目的化へと進化しつつあります。最終的には、地球低軌道上での木造衛星ネットワーク=「木の星座」構築も視野に入れた長期プロジェクトとなっています。
⑥木造人工衛星の打ち上げはいつ?スケジュールを解説
木造人工衛星「LignoSat」は、2024年11月に米国ケネディ宇宙センターから打ち上げられました。この打ち上げは、SpaceX社のロケットによって実施され、目的地は国際宇宙ステーション(ISS)です。
ISSに到着したLignoSatは、約1か月後の2024年12月9日に、「きぼう」日本実験棟から宇宙空間へと放出されました。ここからは、木造構体が宇宙環境下でどれだけの耐久性を発揮するのか、各種センサーを通じてリアルタイムでデータを送信する運用フェーズに入りました。
ただし、1号機ではアンテナ展開の不具合が起こり、地上との通信には成功しませんでした。これを踏まえて、開発チームは通信方式を根本から見直し、すでに2号機の開発に着手しています。
次の打ち上げは2027年を予定しており、2号機では通信アンテナを構体内部に内蔵する設計が採用される見込みです。これにより、アンテナ展開の失敗リスクを回避し、より確実なデータ取得が期待されています。
今後のスケジュールとしては、2026年に2号機を完成させ、翌年に再びISSからの放出を目指す流れです。再挑戦に向けて、各種試験や改良が日々進められています。
まとめ:木製人工衛星の実現とその背景
記事のポイントをまとめます。
- 京都大学と住友林業が共同で木製人工衛星の開発を開始
- 発端は宇宙で木材を使うという土井隆雄氏の構想
- 木材の物性を研究する村田教授がプロジェクトに参画
- プロジェクト名は「宇宙木材プロジェクト(LignoStella)」
- 宇宙曝露実験で木材の耐久性を約10か月間検証
- 使用木材はホオノキ・ヤマザクラ・ダケカンバの3種類
- 実験でホオノキの劣化が最も少なかったため採用
- 木造人工衛星「LignoSat」は2024年にISSから放出
- 構体はネジや接着剤を使わない日本伝統の組木工法
- 木材は電磁波を通すためアンテナを内部に収納可能
- LignoSatは通信に失敗したが構体は問題なく宇宙で機能
- JAXAやNASAの安全基準を満たし正式な審査に合格
- 木造人工衛星は燃え尽きるためスペースデブリ対策になる
- 2号機では通信機能と姿勢制御機能を内蔵する予定
- 将来的には「木の星座」となる衛星ネットワークを構築目指す
最後までお読み頂きありがとうございます♪